イザイヤック・砂漠に咲いた製鉄所(その1)
トイレットはトイレにあらず



39年前、私が海外プロジェクトに従事して、
エジプト・アレキサンドリアのANSDK社という
「エジプト・日本合弁の製鉄所」に赴任した際、
現地で、仲間と9人で創刊した
『イザイヤック(=「ご機嫌いかがですか?」もしくは「お元気ですか?」という意味のアラビア語)』
誌の現物を入手しました。

『イザイヤック』というタイトルの下に
「砂漠に咲いた製鉄所」
という気取ったサブタイトルがついています。

パソコンの無い当時、仲間で手分けして、文章をワープロで入力し、
写真や手書きのカットを切り貼りながら、
現地の日本人社会や日本に残る家族やプロジェクトに関係する企業や
官庁向けに発行・送付したものですが、
赴任して知った異国での人と人との触れ合いや、
エジプトの生活・習慣・宗教、いずれを見ても日本とは大違いな、
現地で生活してみなければ分からないことや肌で感じたことを楽しく書いて、
これから海外に進出する企業の参考になるような随筆集を作る意気込みで始めたものです。

当時のエジプトの状況がよく分かりますので、私の投稿したものを順次公開します。
その黄色くなった表紙を開いてみると、
当時の懐かしい人々の顔や情景が次から次に浮かんできます。
  
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      トイレットはトイレにあらず
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先週、イスマイリヤ・ポートサイド一泊二日の旅に出かけたTさん。
自由貿易港のポートサイドでエジプシャンに頼まれていた
香水を1つ買ったそうです。
ところがTさん、日頃からその方面に関する知識に乏しかったのと、
時間が無くて大急ぎの買い物だったのとで、
ろくろく銘柄も注意書きもよく見ないで、
香水売り場にあった適当なやつを買って帰ったのです。

アレキサンドリアに帰ってから例の香水をカバンから取り出し、
ラベルを見てTさんはびっくり仰天。
銘柄の下に小さい字で「DE TOILETTE」
と注意書きがしてあるではないですか。
どうやらTさんはあわてていたため香水を買うところを、
その隣にあったトイレの芳香剤を買ってしまったらしいのです。

その翌日、Tさんが、香水を頼まれたエジプシャンに、汗だくなって、
「時間が無かったので、今回は香水を買ってこられなかった。次の機会には必ず」
などと苦しい弁明を余儀なくされたのは言うまでもありません。

ところで、この話には後日談があります。

トイレの芳香剤を買ってしまったTさん。
仕方がないので、その芳香剤を独身寮の自室のトイレに振り撒いては使っていました。
それからしばらくして、Tさんが毎週1回通っている英会話教室の席上、
各々の週末の体験や失敗談を話し合うことになり、
Tさんが頭をかきかき「実はポートサイドで・・・」とこの失敗の話しをしたのです。

ところが、その話を面白そうに聞いていたエジプト人(女性)の先生が、
「買った芳香剤に何て書いてあったの?」と聞くのです。
Tさんが覚えているままに、
「確か、EAU DE TOILETTEと書いてあったんで、
 トイレの芳香剤だと思い、今、トイレで使っている」
というと、その先生がおかしそうに笑い出したのです。

その結果、判明したことは、
「TOILETTE」というのはフランス語で「化粧」を意味すること、
「EAU DETOILETTE」とは「化粧水」を意味する、
あの有名なフランスの高級香水「オードトワレ」のことで、
Tさんは「TOILETTE」を
日本の「トイレ」と同じ意味に解釈してしまったばかりに、
高級香水を自室のトイレにふりまく結果を招いてしまったわけです。

Tさんは今トイレに行くたびに、
ふりまいたフランス製高級香水の香りをかぎながら、
日本語とフランス語の「トイレット」という言葉の違いに
思いを巡らしているそうです。
              
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当時の原文を尊重してそのまま「Tさん」としましたが、
「Tさん」が私(豊岡)であることは言うまでもありません。

(当時)1987年10月14日  ANSDK AD 豊岡 宏




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